翻訳とはある言語を別の言語に置き換えることを言います。

厳密にはテキストを異なる言語に置き換える場合は翻訳(ほんやく)、口語を別の言語置き換える場合は通訳(つうやく)と呼ばれますが、いずれもその元となるのは言語です。

【解説】世界の人・世界の国・世界の言語の数でお伝えしたとおり世界で使用されている言語は7,139あると言われていますが、それでは、それら言語はどのように発生、派生したのでしょうか。

本コラムで言語ファミリーと呼ばれる語族(ごぞく)に触れることにより、言語の歴史について思いを馳せたいと思います。

※本コラムはMustGo.comのコラムを元にお届けします。

言語ファミリー(語族)とは

ほとんどの言語は言語ファミリー(語族)に属しています。

言語ファミリー(語族)は「歴史的に共通の祖先から発展した関連言語のグループ」のことで、プロトランゲージ(プロトはギリシャ語で「初期の」という意味)とも呼ばれます。

通常、祖先の言語が直接的にはわかることはありませんが、多くの言語の系図を示す比較法を用いることでその特徴を見出すことができます。

元となった言語が、歴史的に知られている言語と同じと判定されることもあります。

たとえばラテン語の方言が現代のロマンス諸語を生んだことは知られており、プロト・ロマンス語はラテン語とほぼ同一です。

同様に、古ノルド語はノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語、アイスランド語の祖先です。

サンスクリット語は、ベンガル語、ヒンディー語、マラーティー語、ウルドゥー語など、インド亜大陸の多くの言語の元となりました。

さらに時代をさかのぼると、これらの祖先の言語はすべてある共通の言語から順番に派生してきました。この祖先を「プロト・インド・ヨーロッパ語(PIE)」と呼びます。

語族は、語派と呼ばれる小さな単位に細分化することができます。たとえばインド・ヨーロッパ語族には、ゲルマン語、ロマンス語、スラブ語などいくつかの分派があります。

言語間の関係性の構築方法

それでは、言語学者たちはどのようにして言語間の関係性を構築しているのでしょうか。ロマンス諸語を例に見てみましょう。

イタリア語は2千年前にイタリアで話され、多くの文書を残したラテン語の子孫であることが分かっています。ローマ帝国の征服によりラテン語はヨーロッパ中に広まり、やがて各地の方言に発展していったものです。

しかしローマ帝国が崩壊すると、これらの方言は現在のロマンス諸語に進化しました。フランス語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語、その他です。これらの言語はインド・ヨーロッパ語族のロマンス語派を形成しています。

次に示す三つのロマンス諸語の「水」という単語を見るとその共通点がよくわかります。

  • イタリア語)acqua
  • スペイン語)agua
  • ポルトガル語)agua

祖先が記録にない言語

ロマンス諸語の場合は共通の祖先であるラテン語が多くの文書を残しているので、歴史を辿るのはとても簡単です。しかしほとんどの言語はその祖先の言語が文字で記録に残ってはいなかったのです。

そのため言語学者は、子孫である現代の諸言語の類似性から共通の起源を証明したのです。以下はその例です。

  • 英語)water
  • ドイツ語)wasser
  • デンマーク語)vand
  • ロシア語)voda
  • ポーランド語)woda
  • チェコ語)voda

いずれも「水」を指しますが、それぞれのグループの中ではとても似ていても、グループをまたぐとそれほどでもないことがわかります。

最初のグループの言語はインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属しています。第2グループの言語はスラブ語派に属しています。

ゲルマン語やスラブ語の祖先となる言語の記録は残っていませんが、ラテン語と同じようにこの二つの祖先となった言語も、いつの時代までかはかならず存在したと考える必要があります。

どこにも属さない謎の言語

ここでさらに「水」に関する単語を二つの言語で紹介しましょう。これらの言語は上記のどの派に属すると思いますか?

  • ラトビア語)udens
  • アルバニア語)uje
  • バスク語)ur

結論から言うと、ラトビア語はインド・ヨーロッパ語族のバルト語派に属しますが、アルバニア語は近い語派がないだけでなくインド・ヨーロッパ語族のどの語派にも属していません。

また、バスク語はどの語派にも全く属さないことがわかりました。どの語族にも属さず孤立した言語、つまりどの語族にも確実に属することができない言語というわけです。

世界の言語ファミリー(語族)について

記録がなくその歴史がほとんどわからない言語

世界の多くの地域では文字による記録がなくまた、言語そのものについての十分な知識もありません。よってそのような場合は、地理的な要因で言語を分類せざるを得ません。

たとえばオーストラリアの原住民の言語、アメリカ大陸のインディアンの言語、アフリカの部族の言語、その他世界中の数え切れない数の言語がそうです。

言語ファミリー(語族)の数

エスノローグ(第16版)によると、世界には147の言語ファミリー(語族)があるとされています。

しかし言語的に世界で最も多様な地域とされるアフリカで話されている言語の多くについて、我々の知識が限られているためこの数字は正確ではないかもしれません。

実際の言語ファミリー(語族)の数は、これらの言語について研究され言語間の関係が確立されるにつれ間違いなく変化し続けるでしょう。

世界最大の言語ファミリー(語族)

最大規模の言語ファミリー(言語の数が25以上ある語族)は以下の通りです(出典:エスノローグ)。このグループには合計6,523の言語があり世界の全言語の95%近くを占めています(世界言語数を約6,900と仮定)。

尚、残りの言語ファミリー(語族)は世界の言語のわずか5パーセントを占めるに過ぎません。さらにそのほかにも、世界には53の未分類の言語が存在すると考えられています。

ニジェールコンゴ語族

  • 言語数)1,532
  • 使用地域)アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コモロ、コンゴ、コートジボワール、コンゴ民主共和国、赤道ギニア、ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア。ギニアビサウ、ケニア、レソト、リベリア、マラウイ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南ア、スーダン、スワジランド、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ

オーストロネシア語族

  • 言語数)1,257
  • 使用地域)ブルネイ、カンボジア、中国、クック諸島、東ティモール、フィジー、仏領ポリネシア、グアム、インドネシア、キリバス、マダガスカル、マレーシア、マーシャル諸島、マヨット、ミクロネシア、ミャンマー、ナウル、ニューカレドニア。ニュージーランド、ニウエ、北マリアナ諸島、パラオ、パプアニューギニア、フィリピン、サモア、ソロモン諸島、スリナム、台湾、タイ、トケラウ、トンガ、ツバル、米国、バヌアツ、ベトナム、ワリス・フツナ

トランスニューギニア語族

  • 言語数)477
  • 使用地域)オーストラリア、東ティモール、インドネシア、パプアニューギニア

中国・チベット語族

  • 言語数)449
  • 使用地域)バングラデシュ、ブータン、中国、インド、キルギスタン、ラオス、ミャンマー、ネパール、パキスタン、タイ、ベトナム

印欧語族

  • 言語数)439
  • 使用地域)アフガニスタン、アルバニア、アルメニア、オーストリア、アゼルバイジャン、バングラデシュ、ベラルーシ、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、カナダ、中国、クロアチア、チェコ、デンマーク、フィジー、フィンランド、フランス、グルジア、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、インド、イラン、イラク、アイルランド、イスラエル、イタリア、ラトヴィア、リトアニア。ルクセンブルク、マケドニア、モルディブ、ネパール、オランダ、ノルウェー、オマーン、パキスタン、ペルー、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、セルビア・モンテネグロ、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スリランカ、スリナム、スウェーデン、スイス、タジキスタン、トルコ、米国、ウクライナ、英国、ベネズエラ

アフロ・アジア語族

  • 言語数)374
  • 使用地域)アフガニスタン、アルジェリア、バーレーン、カメルーン、チャド、キプロス、エジプト、エリトリア、エチオピア、グルジア、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、ケニア、リビア、マリ、マルタ、モーリタニア、モロッコ、ニジェール、ナイジェリア、オマーン、サウジアラビア、ソマリ ア、スーダン、シリア、タンザニア、チュニジア、トルコ、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、イェーメン

オーストラリア語族

  • 言語数)264
  • 使用地域)オーストラリア

ナイル・サハラ語族

  • 言語数)205
  • 使用地域)アルジェリア、ベナン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、南スーダン、スーダン、タンザニア、ウガンダ

オト・マンゲ語族

  • 言語数)177
  • 使用地域)メキシコ

オーストリア語/世界言語/アジア語

  • 言語数)169
  • 使用地域)アルジェリア、ベナン、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、エリトリア、エチオピア、ケニア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、スーダン、タンザニア、ウガンダ

タイ・カダイ語族

  • 言語数)92
  • 使用地域)中国、インド、ラオス、ミャンマー、タイ、ヴェトナム

ドラヴィダ語族

  • 言語数)85
  • 使用地域)インド, ネパール, パキスタン

クレオール語族

  • 言語数)82
  • 使用地域)アンティグア・バーブーダ、オーストラリア、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ブラジル、カメルーン、カーボベルデ諸島、中央アフリカ共和国、チャド、コロンビア、コンゴ、キュラソー、コンゴ民主共和国、東ティモール、赤道ギニア、フランス領ギニア、ガーナ、グレナダ、グアドループ、ギニアビサウ、ガイアナ、ハイチ、インド、インドネシア、ジャマイカ、マカオ、マレーシア、モーリシャス。メキシコ、ミクロネシア、ニューカレドニア、ニカラグア、ナイジェリア、ノーフォーク島、パナマ、パプアニューギニア、フィリピン、レユニオン、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サントメ・プリンシペ、セイシェル、シエラレオネ、シンガポール、ソロモン諸島、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スリナム、タンザニア、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、U. 米国領バージン諸島、ウガンダ、米国、バヌアツ

トゥピ語族

  • 言語数)76
  • 使用地域)ボリビア、ブラジル、仏領ギアナ、パラグアイ、ペルー

孤立言語

  • 言語数)75
  • 使用地域)ボリビア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、インド、インドネシア、日本、マリ、メキシコ、ネパール、ナイジェリア、パキスタン、パプアニューギニア、ペルー、ロシア連邦、韓国、スペイン、米国、ベネズエラ

マヤ語族

  • 言語数)69
  • 使用地域)ベリーズ、グアテマラ、メキシコ

アルタイ語族

  • 言語数)66
  • 使用地域)アフガニスタン、アゼルバイジャン、中国、グルジア、イラン、カザフスタン、キルギスタン、リトアニア、モルドバ、モンゴル、ロシア、トルコ、トルクメニスタン、ウズベキスタン

ユト・アステカ語族

  • 言語数)61
  • 使用地域)エルサルバドル、メキシコ、米国

アラワク語族

  • 言語数)59
  • 使用地域)バハマ、ボリビア、ブラジル、コロンビア、ガイアナ、ホンデュラス、ペルー、スリナム、ベネズエラ

トリチェリ語族

  • 言語数)56
  • 使用地域)パプアニューギニア

セピック語族

  • 言語数)55
  • 使用地域)パプアニューギニア

ケチュア族

  • 言語数)46
  • 使用地域)アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルー
  • ケチュア語はマクロ言語にも分類されます。つまり、単一の言語の変種で、別々の言語とみなすには十分に区別されていないということです。

ナ・デネ語族

  • 言語数)46
  • 使用地域)カナダ、アメリカ

アルギック語族

  • 言語数)44
  • 使用地域)カナダ、米国

モンミャオ語族

  • 言語数)38
  • 使用地域)中国、ラオス、ベトナム

ウラル語族

  • 言語数)37
  • 使用地域)エストニア、フィンランド、ハンガリー、ラトビア、ノルウェー、ロシア、スウェーデン

北コーカサス語族

  • 言語数)34
  • 使用地域)アゼルバイジャン, グルジア, ロシア連邦

ペヌーティ語族

  • 言語数)33
  • 使用地域)カナダ、米国

マクロゲ語族

  • 言語数)32
  • 使用地域)ボリビア、ブラジル

ラム–下位セピック語族

  • 言語数)32
  • 使用地域)パプアニューギニア

カリブ語族

  • 言語数)31
  • 使用地域)ブラジル, コロンビア, ガイアナ, スリナム, ベネズエラ

パノ語族

  • 言語数)28
  • 使用地域)ボリビア、ブラジル、ペルー

コイサン語族

  • 言語数)27
  • 使用地域)アンゴラ, ボツワナ, ナミビア, 南アフリカ, タンザニア

セイリッシュ語族

  • 言語数)26
  • 使用地域)カナダ、米国

トゥカノ語族

  • 言語数)25
  • 使用地域)ブラジル、コロンビア、エクアドル

ソース:Language Families

最後に

現生人類の最も近い共通女系祖先とされるミトコンドリア・イヴ同様、言語もその歴史をさかのぼると、もしかしたら単一のものにたどり着くのかもしれません。

ただし、残念ながらその解明まではまだしばらく時間が必要なようです。

しかしこれら言語ファミリー(語族)と呼ばれる存在を知ることで、これまでより少しだけ言語というものについて考えることができたのではないでしょうか。

世界の言語についてはぜひ【世界の言語】使用人口と使用状況も合わせてお読みください。

まとめ

以上、「【世界の言語ファミリー(語族)】について」でしたがいかがでしたでしょうか。

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