オノマトペ(擬音語)とは、その言葉が指す対象や行為に関連する音を模倣した言葉のことです。オノマトペはマンガの中で重要な役割を担っています。
その定義や特長、具体例とともに、国によって共通する部分も異なるところも多々ある、不思議なオノマトペについて詳しくご説明します。
※本コラムはHERCULES社のコラムを元にお届けします。
オノマトペ(擬音語)とは
オノマトペ(擬音語)とは、それが指す対象や行為に関連する音を模倣した言葉のことです。
オノマトペはコミックの視覚的要素と言語的要素の両方に関連するため、コミックにおいて重要な役割を果たします。
オノマトペは基本的に言語的なものですが、そのデザインには独特の視覚的な魅力があります。
たとえばオノマトペは通常、大きくカラフルで、不揃いな文字で書かれ、コマの中で非常に独特な方法で配置されます。
通常は直線であまりきれいに並べられず、下の二つの例が示すように、かなりの面積を占めることが多いもので、マンガに第三の次元、すなわち音の次元を与えるものなのです。
オノマトペに世界共通のストックリストというものは存在しません。
言葉は国籍や文化によって異なり、時には大きく異なることもあります。そのため、それぞれの国にはそれぞれの擬音表現があるのです。
以下、いくつかの例をご紹介します。
- 英語)TICK TOCK (ティックトック、時計の音)
- 韓国語)CHIK CHIK POK POK(チクチクポクポク、汽車の音)
- フランス語)RON PSHI (ロンプシ、いびき)
- 日本語)PACHI PACHI(パチパチ、燃える火の音)
- ドイツ語)MAMPF (マンプフ、むしゃむしゃ食べる)
オノマトペでは「OINK」「MEOW」「ROAR」「CHIRP」などの動物の鳴き声や、「HONK」「BEEP-BEEP」などの自動車のクラクション、「VROOM」「BRUM」などのエンジンの音など、機械の音がよく使われます。
後述するように、オノマトペは翻訳者にとって言語的な問題であると考えられますが、その翻訳には技術的な問題も少なくありません。
技術的な問題とは、オノマトペは通常、絵と一体化しているため、異なる言語に翻訳する場合、吹き出しやナレーションボックスのテキストだけでなく、絵も修正する必要があることです。
技術的な観点からこれは翻訳されたテキストを吹き出しに移植するよりもはるかに複雑です。
なぜなら世界中で出版されているコミックそれぞれの国の編集者には通常、吹き出しは空白で送られるため、編集者の仕事は比較的簡単だからです。
しかし、オノマトペの場合は絵の修正の難易度に加え、出版社が負担する追加経費が大きいことも、その翻訳が技術的に大きな問題となる原因なのです。
オノマトペ(擬音語)の定義
オノマトペは「名付けられたものに関連する音から言葉を作ること」と定義されています。
この言葉自体はギリシャ語が起源で、16世紀にラテン語を経由して英語になりました。文字通り「言葉を作る」という意味です。
しかしオノマトペは、その定義が世界中の異なる言語によって問われる、不思議な概念です。何かの音は、世界中どこにいてもだいたい同じです。
たとえばイギリスでも韓国でもグラスを床に落とすと同じ音がするのに、それを表現するための音は国によって大きく異なることがあります。
言語の違いによる音の表現の仕方の違いから、同じ音でも伝わり方が異なる例をいくつかご紹介しましょう。
- 犬の鳴き声
- 英語では、犬が吠える音を表すのに 「WOOF WOOF」が使われ、ロシア語では 「GAV GAV」が主に使われます
- 一方、小型犬であれば、ロシア人は 「TYAV TYAV」を使うことが多いですが、フランス語では 「OUAF OUAF」です
- 赤ちゃんの泣き声
- 「Wah-Wah」は英語で赤ちゃんの泣き声を表すのに使われますが、フランス語では 「OUIN OUIN」、スペイン語では 「BUA BUA」が使われます
- 「EUNG'AE-EUNG'AE」は、韓国人が赤ちゃんが泣くときの音を指すのに使う言葉です
- 銃声
- 「BAM」、「BOOM」、「BANG」、「POW」は、英語で銃声の音を伝えるときに使われます
- フランス語では 「BOUM」 と 「PAN」 が、イタリア語では 「BUM」 と 「PUM」が、ロシア語では 「BA-BAKH」と 「PIF-PAF」 が使われます
- 痛み
- 英語では怪我をしたときに「OUCH」と言いますが、フランス語では「AIE」と叫びます
- また、ドイツ語では「AU」「AUA」「AUTSCH」などで痛みや怪我を表現します
- 蛇口から水が漏れる音
- 水道の蛇口からシンクの表面に水が当たる音を、英語では 「DRIP DROP」と表現します
- 「PLIC PLOC」はフランス語で、「PLITSCH PLATSCH」はドイツ語で音を出すときに使われます
オノマトペ(擬音語)の共通認識
しかし言葉はまったく違っても、ほとんどの場合共通認識として感じられるものもあります。
たとえば蛇口から水が漏れる音の場合、「DRIP DROP」「PLIC PLOC」「PLITSCH PLATSCH」はすべて同じ語頭音である破裂音を使っています。
これは「P」が水面を叩く音を伝える、ということでほとんどの場合意味が通じます。
だから水漏れしている蛇口を指差して「PLIC PLOC」と言えば、違う言語を話す人にも何が起こっているのかが正確に伝わる可能性があるのです。
だからオノマトペは言語に於いてはとても使い易いものなのです。それは言語の違いによるギャップを埋め、つながりを確立することができるものなのです。
猫の泣き声も、異なる言語に於けるオノマトペの共通理解の一例です。
英語では「MEOW」と表現されますが、ドイツ語では「MIAU」、フランス語では「MIAOU」、スペイン語では「MIAU」、中国語では「MIAO」と表現されます。
いずれも同じ音、この場合は鼻音の「M」を使っているので、訳語は同じではありませんが、国籍や文化の違う、異なる言語を使う人たちが見てもすぐに分かるようになっています。
オノマトペ(擬音語)の哲学的な面
スイスの言語学者で記号学者でもあったFerdinand de Saussure(フェルディナン・ド・ソシュール)氏は、「オノマトペは言葉と意味が直接結びつくのではなく、擬音語以外の起源から発展した偶然の産物である可能性がある」と主張しました。
彼はこの偶然の産物の例として、「犬が吠える声」に対するフランス語と英語のオノマトペ(OUAF OUAF 対 WOOF WOOF)を挙げ、また、フランス語と英語に於ける「痛み」の間投詞(苦しみや驚きなどの強い感情を表す品詞)の対比(AIE 対 OUCH)を主に指摘し、同様の議論で間投詞を否定しています。
一方、フランスの哲学者Jacques Derrida(ジャック・デリダ)氏は、「ソシュール氏はオノマトペを文化的脅威と見なし、言語の内部システムの本質的な恣意性に外付けしようとした。」と主張しました。
彼はオノマトペを、言語の進化に根ざした自然なプロセスだと考えていたのです。
どちらの意見も、何百年もの間、言語学者の間で激しい論争を巻き起こしてきました。
しかしオノマトペは無くなることなく存在し続け、世界中の社会で役割を果たし続けているという事実には変わりはないのです。
まとめ
以上、「【コミック・アニメの翻訳】オノマトペの挑戦」でしたがいかがでしたでしょうか。
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