言語分野に於ける技術の進歩が著しいですが、それをどのように倫理的に使用すれば誰もがその恩恵にあずかることができるのかは懸念されるところです。

そしてこの懸念は最近、OpenAIのChatGPTというAIを使った最新の翻訳・コミュニケーション技術の提供が開始されたことで、より一層重要性を増しています。

ChatGPTは翻訳・ローカライゼーション業界では大きな議論の対象になっており、専門家たちはこの分野にどのような影響を与えるか評価しようとしています。

本コラムではChatGPTを使用する際の倫理的な問題や注意点を探ってみます。文化的な配慮や精度など、さまざまな課題がある翻訳・ローカライズにおけるツールの限界とメリットに迫ります。

※本コラムはTomedes Ltd社のコラムを元にお届けします。

翻訳・ローカライゼーションにおける文化的感受性

文化的感受性について説明する前にまず、文化的感受性とは何かについて説明しましょう。翻訳やローカライズに於いて、文化的なニュアンスや意味合いを正確に伝える能力を「文化的感受性」と言います。

翻訳者がある言語から別の言語に翻訳する場合、文化的な不正確さやステレオタイプによる品質の劣化を防ぐために、テキストメッセージの文脈を適切に把握するための、深い文化的感受性を持つ必要があります

長きに渡り自動翻訳(機械翻訳)にはこの問題があったことは、こちらの研究論文からもわかります。

最新のAIベースの言語モデルとしてChatGPTが登場したことで、それが文章の文化的なニュアンスを理解できるかどうかが話題になっています。

なぜならChatGPTはニューラルネットワークで動作しているため、人間のような回答が得られるのではと注目されているからです。

そこで「テキスト翻訳に必要な文化的感性を持つかどうか」をChatGPTに聞いてみました。その答えが次のとおりです。

ChatGPTは他の機械学習モデルと同様、本質的に文化的な感性を持つものではありません。その文化的感性は訓練されたデータに基づいています。学習データが多様で文化的に敏感であれば、適切な翻訳を生成するかもしれません。しかし学習データが文化に敏感でない場合、ChatGPTはステレオタイプで不正確な翻訳を生成する可能性があります。

AIの言語モデルとして文化的な感性を身につけるための正確なトレーニングが必要であることを、ChatGPT自体が宣言するほどの「自己認識」を持っていることは印象的です。

しかしこれは非常に厄介な問題です。なぜならChatGPTは与えられた情報をもとにアルゴリズムを実行するプログラムであるため、エンジニアの主観によってコンテンツを作成したり、文章を翻訳したりする可能性があるからです。

実際、その自動翻訳(機械翻訳)結果にはジェンダーや人種のバイアスが見られることがすでに明らかになっていますが、それはAIモデルが現存する、そのような情報を元にしているからです。

このような問題を回避するための解決策の一つとして、ChatGPTが受けるトレーニングの多様性を高めるために、豊富な言語や文化に関する情報の入力に頼ることが提案されています。

しかしChatGPTのプログラムが使用するデータについては倫理的な問題もあり、どのように実施するかはまだ議論の余地があるようです。

なかでも「公正な利用と著作権」は現在議論の最前線にあるものであり、そのようなデータを入手しプログラムが使用することは知的財産権法に違反するとの指摘もあります。

このようなことから今のところは「機械翻訳ポストエディット(MTPE)」プロセスを導入するのがベストな選択肢と思われますが、これはChatGPTが翻訳したテキストを人間の翻訳者がポストエディット(後で編集)して関連性と正確性をチェックするという方法です。

「機械翻訳ポストエディット(MTPE)」は何十年も前から翻訳・ローカライズの分野で活躍しているので、ChatGPTを取り入れることにそれほど問題はないでしょう。

尚、「機械翻訳ポストエディット(MTPE)」プロセスを用いてローカリゼーションや翻訳サービスを提供する企業は、国際標準化機構(ISO)のような標準化機関の認定(ISO 17100)を受けることができます。

ChatGPTの翻訳の精度

明確で効果的なコミュニケーションには翻訳の精度が欠かせません。ChatGPTには翻訳のスピードと効率を大幅に向上させる可能性がありますが、これまでのニューラル機械翻訳と同様、翻訳の不正確さの問題に直面しています。

これは問題です。なぜなら不正確な翻訳は、誤解や誤訳のドミノ倒しにつながるからです。特に法律や医療などの分野では、誤訳された文書が重大な影響を及ぼすことがあります。

個人の生命がかかっているわけですから、それを支援するための翻訳モデルが言語的・文化的に正確な表現ができるかどうかが重要なのです。

ChatGPTは機械学習モデルなので、トレーニングによって特定の分野向けに調整することが可能です。しかしニッチな分野の翻訳に使うには、考慮しなければならない要素が多いのです。

たとえば法律関係の翻訳では、言語の文化的・語彙的なニュアンスを理解することに加え、ChatGPTは翻訳する前と後、二つの言語それぞれの国の司法制度を、その複雑さまで理解する必要があるのです。

現在ChatGPTはベータテスト中なので無料で使用することができますが、これはつまり特定の目的に合わせて変更したり調整したりすることは今はできないということです。

しかしもしそれができるようになれば、現在よりも正確な翻訳ができる可能性があるのです。

翻訳・ローカライズに【ChatGPTを活用する際の倫理観】について

翻訳・ローカライゼーションに於けるChatGPTへの倫理の実装

翻訳・ローカライズでChatGPTを十分に活用するための倫理的な懸念や課題について説明したので、次は効果的かつ、責任を持ってそれを実施する方法について説明します。

ChatGPTの最大の倫理的な懸念は、それが人間の翻訳者に与える影響です。

「翻訳者は機械に仕事を奪われるのか?」。ある記事の専門家によると、現在60~90%とされるニューラル機械翻訳の精度は、毎年3~7%ずつ向上しているとのことです。

しかしこのような主張に関係なく、ニューラル機械翻訳には人間の翻訳者が持つ文化的、言語的なニュアンスがまだ明らかに欠けています

そのため今もローカライゼーションや翻訳の分野では、自動翻訳(機械翻訳)されたコンテンツをポストエディットする、人間の翻訳者が常に必要とされています。

前述の通りChatGPTはまだベータテストの段階です。しかしその方法が確立すれば、法律や医療といったニッチなコンテンツにも使える可能性があります。

しかし法律実務に於けるニューラル機械翻訳の使用について行われたある調査では、それが「人間のような翻訳レベルに達している」にもかかわらず、それを業務に使用する弁護士は法的過誤の危険性が高いことが判明しました。

なぜなら自動翻訳(機械翻訳)ツールによる誤訳は、弁護士側の過失の根拠となり得るからです。

法律の観点からは一言一句が重要であり、法的文書に誤った翻訳があれば当事者双方に悲惨な結果をもたらす可能性があります。

そのため法律領域に特化した人間の翻訳者は、扱う法制度を深く理解していることもあり、法廷でも支持されるのです。

つまりは今のところは「機械翻訳ポストエディット(MTPE)」がAIと人間の翻訳者の両方のメリットを得るための、最も実用的な方法だということです。

ChatGPTをはじめとするニューラルネットワークの言語モデルには、さらなるトレーニングが必要であることは明らかです。

一方、これらのツールは「機械翻訳ポストエディット(MTPE)」の一部としての使用にとどまらず、メール作成や校正など、翻訳作業のパーソナルアシスタントとしても使用することができます。

また、ChatGPTは比較的新しい技術なので、ローカライズや翻訳の現場に組み込まれることで編集後の工程を超えることができる可能性は大いにあります。

言語サービス業界が直面するであろう最も確率の高い課題は、言語サービス会社としての質を落とさず、より確実に利用できるようにするため、ChatGPTや今後登場するAI技術を「如何にしてスキルや専門性を高めるように使いこなす人材を育成するか」ということなのです。

最後に

翻訳・ローカライズの分野では、ChatGPTに大きな可能性があると思われます。

しかしChatGPTは文化的な感受性や正確さがまだ欠けているため、これがすぐに人間の翻訳者に取って代わることはないと言って良いでしょう。

ただしChatGPTが文化的なニュアンスを考慮し、正確な翻訳を行う上で直面する課題を理解することで、これらの潜在的な問題を軽減することができるでしょう。

そしてそのような取り組みには、多様で文化的に敏感なトレーニングデータを取り入れること、人間の監視とフィードバックに頼ること、トレーニングプロセスにおいて文化や分野の専門家に頼ることなどが含まれるかもしれません。

これらを考慮することで、倫理的な基準を維持しながら、ChatGPTの可能性を最大限に引き出すことができるのです。

まとめ

以上、「翻訳・ローカライズに【ChatGPTを活用する際の倫理観】について」でしたがいかがでしたでしょうか。

当社は翻訳の目的や、翻訳する文書の特徴、性質などを正しく理解、見極め、相手国の文化的背景を念頭に、ホームぺージや契約書、取扱説明書、プレゼン資料、リリース、ゲーム、アプリその他あらゆるビジネスで必要なドキュメント、テキストの「プロ翻訳者による翻訳」を、英語を中心に世界120か国語で行ないます。

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