【重要】翻訳の品質を決める6つの要因

ドキュメント(文書)とは、なにかを伝えたかったり知りたかったりする場合に用いるものです。そして翻訳は、それらを普段とは異なる言語で行なう際に必要となるものです。
伝える、理解するといった明確な目的があるため、翻訳はもちろん、その元となるドキュメント(文書)の品質にこだわる必要があるのは言うまでもありません。
しかしながら実際には、「とりあえず外国語になっていればよい」「元の外国語がわからないから翻訳された日本語が正しいかわからない」と品質が軽視されているケースも残念ながら少なくありません。
本記事では、翻訳の品質を意識し、それを高めるために必要な「翻訳品質の決定要因と気を付けるべき6つのこと」についてご説明します。
誰が読むのかを意識する
まず「翻訳されたものを読むのは誰なのか?」を明確にし、翻訳する際にも翻訳外注先にきちんと伝えることがなによりも重要です。
- 社外(そと)に向けて必要な翻訳なのか?
- 社内(うち)に向けて必要な翻訳なのか?
などはひとつの例ですが、たとえば社外向けには「海外現地法人のローカルスタッフが読む必要のあるマニュアル」「取引先の海外企業と取り交わす契約書」などがあり、社内向けには「社内の外国人従業員に対するお知らせ」「海外市場の現地調査報告書」などがあるでしょう。
- 翻訳されたものを読むのが、翻訳言語のネイティブ(それを母国語とする人)なのか?
- 翻訳言語のネイティブ(それを母国語とする人)以外なのか?
も明確にすべき点です。
一概に「英訳(日本語から英語への翻訳)」といっても、イギリス、アメリカなどそれを母国語とする英語ネイティブに向けたものと、第二言語として英語を使うアジアに住む人たちに向けのものでは、読み手の理解を促すために翻訳の仕方を変える必要があります。
つまり「必ずしも正統で美しい翻訳が良いわけではない」ということです。
「翻訳されたものを読むのは誰なのか?」を翻訳外注先にしっかりと伝え、目的に合った翻訳を手に入れることは企業間取引やCI(コーポレート・アイデンティティ)の点からも重要ですので、翻訳にかける予算も念頭に適切な対応が必要です。
- 外注先から納品された翻訳の品質チェックをするのは、発注者側の誰なのか?
- 翻訳品質をチェックするのは、翻訳されたものを読む人と同じ国の人なのか?
についての情報共有も大切です。
「翻訳されたものを読むのは誰なのか?」を念頭に翻訳を行なっても、翻訳品質をチェックする人によってはその好みに合わず、翻訳外注先に修正を求めることもあります。
これは翻訳品質をチェックする人が、ご自身の外国語能力の高さを自負されている場合に生じることのある事例ですが、このような内向きのコンフリクトは、翻訳する目的やそれに期待する成果から遠ざかる一因となりますので、しっかりした事前検討と情報共有を行なうことで防止しましょう。
読む人の母国語について考える
「誰が読むのか?」に加え「読む人はどこにいる、何語を使っている人なのか?」も大切な検討事項です。
たとえばイギリスで使われる「英国式英語」とアメリカで使われる「米国式英語」では、スペル、時制、複数形と単数形、呼称などが次のように異なります。
■スペルの違いの例
米国式英語 | 英国式英語 |
organize | organise |
licence | license |
center | centre |
color | colour |
catalog | catalogue |
traveler | traveller |
whiskey | whisky |
■呼称の違いの例
日本語 | 米国式英語 | 英国式英語 |
1階 | First Floor | Ground Floor ※2階がFirst Floor |
秋 | Fall | Autumn |
アパート | Apartment | Flat |
映画 | Movie | Film |
映画館 | Movie Theater | Cinema |
エレベーター | Elevator | Lift |
ガソリン | Gas | Petrol |
また、「スペイン語」もスペイン国内で使われるものと中南米で使われるものでは、単語、文法などが違います。
「ポルトガル語」も同様に、ポルトガル国内で使われるものとブラジルで使われるものでは、単語、発音、人称代名詞目的格、前置詞、進行形などが異なるのです。
このように同じ言語でも使用される地域によっては異なること理解した上で、「どこにいる」「誰に」「何語で読んでもらいたいのか」を事前に検討した上で、翻訳外注先に共有するようにしましょう。
尚、公用語が複数ある国もありますのでさらに注意が必要です。
適切な文体・訳調を選ぶ
「文体(ぶんたい)」というのは「文章の様式」のことです。翻訳会社だけでなく新聞社、出版社などドキュメント(文書)を扱う組織では特に重要視されるものです。
たとえば次のようなものですが、文体にもいろいろあることを理解した上で、翻訳の目的や翻訳に期待する成果に適切なものを選択するようにしましょう。
言語 | 文体 |
日本語 | 「ですます調」または「である調」 |
中国語 | 「大陸式簡体字中国語」または「香港、台湾式繁体字中国語」 |
英語 | 「スペイン国内向け」または「中南米向け」 |
スペイン語 | 「英国式」と「米国式」 |
ポルトガル語 | 「ポルトガル国内向け」と「南米ブラジル向け」 |
また「訳調(やくちょう)」とは翻訳における「文調(ぶんちょう)」のことですが、「翻訳における文章の調子」のことです。
「簡潔で事務的な表現」「誰にでもわかり易い平易な表現」「相応の読者に向けた格調高い表現」などが訳調の代表的なものですが、これらについての事前検討と翻訳外注先への共有は大切です。
きちんと共有されないと、翻訳外注先はその経験にもとづいて「きっとこういうものが必要だろう」と憶測で翻訳することとなり、結果としてただ単に言語を置き換えただけの、無味乾燥な翻訳になる可能性もあります。
希望する「文体」や「訳出」によって翻訳の仕方や外注先を細かく変えることが理想的ですが、まずは事前に意識し、よく検討するようにしましょう。
また、翻訳の元となるドキュメント(文書)を作成する段階から、「誰が読むのか」を考えた上で、それに適切な文章とすることが肝要です。

スタイルをおろそかにしない
「スタイル」は「文体」とほぼ同義ですが、文章の「様式」や「型」そして「文体」等を総合的にとらえたものです。それらを網羅した手引き書を「スタイルガイド」と呼び、統一した言葉遣い、文体、句読点の処理、空白、フォント、フォントサイズ、レイアウトまで細かく記載されています。
「スタイル」で気を付ける点には次のようなものがありますが、当社も独自の翻訳作業用ルールブックやガイドブック、スタイルガイドを作成し、表現や用語の統一を行なうことにより翻訳品質の向上に努めています。
- 漢字の使用範囲(常用漢字のみを使用するかどうか、など)
- 接続詞や副詞(すぐに、ときどき、など)を漢字にするのか、ひらがなにするのか
- 送り仮名の統一方法
- 外来語の記載方法 外国の国や地名、人名の記載情報
- かぎ括弧や句読点の用い方(統一方法)
- 年月日の表記の仕方
- 数詞(数)についての表記基準
- 単位記号の表記の仕方
尚、「文字印刷体裁の規則が言語によって異なること」は翻訳業界以外では知らない方も多いため、その重要性に気付かず日本語の規則に合わせてドキュメント(文書)の内容を調整してしまいがちです。
また、句読点や引用記号(引用符 ’、”)は言語によって異なり、日本国内で普及している標準的なキーボードでは入力できない記号付き文字があることにも注意が必要です(例:ウムラウト(ドイツ語、スウェーデン語の文字上の点々)、トレマ(フランス語、スペイン語、ポルトガル語の文字上の点々)など)。
表記の間違いは読者に不快感を与え、企業ブランドのイメージ低下にもつながりますので、外国語の文字印刷体裁については注意が必要です。
スタイルについては国土交通省の観光庁でもガイドラインが策定、公示されています。また、ほかにもインターネットで検索すれば次のような、さまざまなサイトから無料で入手できます。
また、スタイルをチェックしてくれる次のような便利なツールも存在します。
用語集(対訳集)を作ってみる
尚、もし過去に翻訳した内容の一部だけ改訂するような継続的な翻訳外注を予定している場合は、「用語集」や「スタイルシート」を作成することをお勧めします。
「用語集」は「用語の定義を集めたもの」ですが、翻訳業界に於いては「左に翻訳の元となった用語、右に翻訳した用語が併記されたリスト」のことです。インターネットで検索すると一般公開されているものも数多くあります。
翻訳会社に作成を打診してみるのも手ですが通常は有料になりますので、まずは自社で初版を作成の上、翻訳外注する度に(翻訳外注先に)更新してもらうことも検討してみるとよいでしょう。
「用語集」は「用語を調べる」手間が省けるため、品質の安定化とともにコストダウンが実現できる可能性が高くなります。
レイアウトを大切にする
「レイアウト」とは、ドキュメント(文書)の体裁のことです。
有料であることが多いですが、翻訳されたドキュメント(文書)の体裁を整える必要がある場合、翻訳外注先に作業を頼んでみることも検討しましょう。
忘れがちですが、日本語を英語に翻訳すると文章は長くなります。レイアウトは当然、横に伸びることになります。
このような場合、文章の途中で改行することになりますが、外国語の場合「改行をどこで行なえばよいのか」「単語を切ってしまってよいのか」など判断に迷うと思いますので、翻訳外注先に翻訳と同時に作業してもらうことをお勧めします。
英語であればなんとか自力で行なえることも、アラビア語、タイ語などその他の言語、特に希少言語となると何が書いてあるのかさえもわからず、レイアウトを調整し様がない、レイアウトのとりようもない、ということも起こり得るからです。
尚、「レイアウト」作業のことを翻訳、印刷業界などでは「DTP(Desk Top Publishing:ディーティーピー)」と呼びますが、この作業においても次のようなことを事前に十分検討する必要があります。
- 英数字や記号類の処理はどうするか
- 半角にするか全角にするか
- 翻訳するだけでよいのか図表の調整や作成もするか(してもらうか)
- 料金加算要因となる図表作成を避け、照合ナンバリング方式を採用するか
- 文字化けを防止するために文字コード(Shift-JIS、UTF-8)の指定をするか
- アウトライン化データ納品が可能か
尚、照合ナンバリングとは、翻訳の元となるドキュメント(文書)の該当箇所に番号を振って、番号毎の翻訳を一覧化して納品する方法のことで、改行やフォント調整その他、図や表のレイアウト作業は行なわない方法です。
この方法だと翻訳料金とは別計上される「レイアウト料」が発生しないため、翻訳コストダウンにつながります。
アウトライン化とは、文字情報の図形化のことです。
たとえばAdobe Illustratorで作成したデータをOSやバージョンの異なる別の環境(PC)で見た場合、作成したPCと同じフォント(書体)がその環境(PC)にインストールされていないと、別のフォント(書体)に勝手に置き換わったり、文字化けや字間など体裁が崩れたりする可能性がありますので、そのような事態を防ぐ処置のことをいいます。
まとめ
以上、「【重要】翻訳の品質を決める6つの要因」でしたがいかがでしたでしょうか。
翻訳の品質を決めるのは「翻訳された文章の内容」だけではありません。体裁を含む、読み易さやメッセージの伝わり易さまで総合的にみて初めて、「翻訳の品質が高い」と言えるのです。
「翻訳料金を高いと感じる」方は多いと思いますが、翻訳はこのようにさまざまな角度からの検討を重ねた上でようやく完成する芸術的要素の強い創作物でもあること、単なる言語置換作業ではないことを念頭にぜひ、「翻訳の品質を上げるためには必要なコストはかけなければならない」ことをご理解ください。
翻訳は労働集約型産業であるため、翻訳品質と翻訳料金は確実に比例します。
プロ翻訳者という「人」が行なっている以上、「毎年自動的にコストが下がる」ものでも「生産性が飛躍的に向上するもの」でもないことを最後にお伝えします。
翻訳品質をいかに向上させるかでお悩みの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。